現在、第三展示室には、二二種の打楽器、管楽器、弦楽器が展示してあります。ロビーにも、六種類ほど、手に触れて音を奏でてもらうよう展示中です。タイ国の楽器が主ですが、他にインド、ネパール、インドネシア、パプアニューギニア、中央アジア、ケニアと、今まで直接見たこともないような、珍しい楽器類です。素材は、竹、皮、木、陶、瓜やヤシの殻、西洋系の楽器と比べると、生活から根ざしたところから来る。人間の生の声、素朴な魂というもの、彷彿とさせてくれます。音楽としてみると、世界には五つの大きな流れがあります。
一、東アジア文化系音楽(古代中国、韓国、日本、チベット、モンゴル、ベトナム)
二、東南アジア文化系音楽(タイ、カンボジア、ラオス、ビルマ、マライ諸島、インドネシア諸島)
三、インド文化系音楽四、西南アジア文化系音楽
四 、 西南アジア文化系音楽
五、ヨーロッパ文化系音楽
今日、人はヨーロッパ文化系音楽に対して「音楽」または「標準音楽」としての位置を与え、その他のものは一括して民族音楽としていますが、甚だしい文化への偏見ではないかと思われます。特に、ヨーロッパの楽器(例えば、ティンパニー、バイオリン、オーボー、フルート、ギター、マンドリンなど)いずれもアジアに祖型を持つものです。ヨーロッパの合理主義的精神から、器機的に改造され、客観的に優れた音楽効果を作り出すものに変わっていったのです。オーケストラという完成された音楽形態を創り出したのもヨーロッパです。東南アジアほど、複雑多岐な文化内容を宝蔵している地域は少ないと言われています。言語、習俗を異にしている民族が雑居し、ジャワの音楽は、あくまでジャワのものであり、タイやベトナムには通じず、同じ国内にあっても民族の相違から、相いれない内容や形式の音楽が対立している場合も少なくありません。解明されていない音楽も多く、研究者を待っている状態です。
東南アジア音楽を総括して言えば、
○打奏楽器を主とした合奏曲
○ゴング属が合奏曲の中心タイの合奏音楽には、マホーリという弦楽器を主体とした合奏と、ピーパーという管楽器を主体としたもの
との二種があります。他の国にもそれぞれ独特の合奏楽が存在しています。
インドの楽器として、ディルルバ、タンブール、タブラー、シタールが展示してありますがインド音楽は、ひたすら旋律の道に沿い発展し、西洋音楽の発展は、和声の分野と言われますが、インド音楽の魅力は、それ自体立派な文化といえます。
東南アジア、インドの音楽は、科学と言うより、呪術、宗教を感じさせ、聞いているもの情感の美へ誘い込んでくれます。形にとらわれない不均斉の美であったり、官能的であったりします。
角で作った笛、竹同士の打撃音で音楽を奏でるアンクルン、木に竹を差し込んだ原始笙、息で鳴らす口琴、など自分たちの生活を、自分たちで楽しみ創り出している。現在のヨーロッパ音楽にはない人間本来の素朴な欲求がほのかに見えてきます。私たちは、音楽を知るとともに、アジアの人々を理解することへと、一歩前進したいものです。